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「おうちで作れるカフェのお菓子」

山村光春(編集者 BOOKLUCK 主宰)







偶然とかいて”ひつぜん”と読む、
そんな出会いは人生にときどきありますが、
ヒコさんとの出会いもそのひとつかもしれません。

僕はスイーツのおいしいカフェを探し求めて、
全国をめぐっていました。
それらのメニューのレシピを紹介する本を
編集していたので、
そのリサーチもありますが、
自分のたのしみでもありました。

そんななか「カフェヒコというお店の
マフィンがおいしいらしい」
といううわさをどこからか聞きつけ、
お正月休みを利用して三重まで行きました。

もちろんヒコさん自身のことは知らず、
「coffee」を逆さにした店名に、
どことなくセンスを感じていました。

たどり着くと、民家を改装したクリーンな空間で、
当時からいわゆる「古民家カフェ」
は多くありましたが、
ここまでしっかり手を入れてるところは珍しく、
逆に新鮮でした。

その瞬間です。

入り口の真向かいにある本棚に、
僕の著書「眺めのいいカフェ」が、
とてもよいところに飾られていたのです。






僕はうれしくなって、思わずお店の人に向かって
「これ、僕が書いた本なんです」
と、指を差しました。

その本をヒコさんは、なぜか隣にある
モーリス・センダックの絵本
「かいじゅうたちのいるところ」と勘違いし
「そうなんですね!うちの妻が喜びます」と言って、
呼んできてくれたんです。

今から考えると、
どう見てもモーリスって顔じゃない僕のことを、
なぜヒコさんは信じたのか分かりません。
それ以来、このエピソードはヒコさんとの、
永遠の語りぐさになっています。






さて、それから僕がどうしてこの店を
取材しようと決めたのか。
もちろんマフィンの見るからにおいしそうな
傘の張り出しぐあいとか、そのわりに
口当たりは軽やかで口溶けがいいところとか、
フィリングの組み合わせの妙とか、
理由はいくつもありますが、決め手となったのは、
その所作でした。

カウンターの中でアイスコーヒーを入れている
ようすをチラリと見た時、ヒコさんは
表面の気泡をていねいにつぶしていたのです。

つまり、僕の思う「よいカフェ」とは
こういうちょっとしたところに、
ちゃんと心を注げるかどうか。
「ここは間違いない」と思った瞬間でした。






そうして取材した記事は、2018年
「おうちで作れる カフェの朝食」
という本になりました。

さらに2022年、シリーズの改訂版
「おうちで作れる カフェのお菓子」にも再掲載し
「喫茶日曜日」の紹介記事も加えています。

僕が思うに、レシピは写真や文章では
伝わりきれない「その店らしさ」の結晶です。
また本になるということは
「ここに、こんなマフィンがおいしいお店があった」
という証として、
遠い未来まで残ることを意味しています。

ずっと継がれていく味。
「カフェヒコ」のマフィンは、
それに見合うものだと思います。
だって、まじでおいしいですもん。






Amazon.co.jp: おうちで作れる カフェのお菓子 : 山村 光春: 本









やまむらみつはる  
雑誌「オリーブ」のライターを経て、

暮らしまわりの編集とライティング
を手がけるBOOK LUCK設立。
編著書に「眺めのいいカフェ」
「カフェの話」(ともにアスペクト)
「おうちで作れるカフェのお菓子」
(世界文化社)など多数。
京都芸術大学講師。「やさしい編集室」主宰。
現在、福岡と東京の二拠点暮らし。

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